私は専門学校を卒業後、19歳からパティシエとして働き始め、約14年間、街場の製菓店やホテルなど様々な形態の職場で経験を積んできました。前職は神戸のシティホテルに勤務していましたが、新型コロナのパンデミックを機に転職活動を始めました。
ラスイートは以前から知っていましたが、ブランド力が高いというイメージがありましたので、求人が出ているかどうかも確認せずに飛び込みで電話をしたところ、面接をしていただき、結果的にスー・シェフパティシエとして雇っていただきました。それまで役職がついたことはありませんでしたし、面接でもそういう話はなかったので、正直驚きました。プティガトーやウェディングケーキ、焼き菓子やビュッフェのデザートなど様々なジャンルに携わってきたことや、直前にガレットデロワのコンクールで賞を取ったことも評価されたのかなと思っています。
今までの経験を通じて私が感じる、ホテルで働くパティシエの魅力は、多くのジャンルを経験できるところです。
一言で「パティシエ」と言っても、様々な形があります。街の中にある一般的なケーキ屋、パンケーキやアフタヌーンティーなどを作るカフェ、ウェディング、レストラン、ショコラトリー。どのスタイルで働いても「パティシエ」です。その中のどれか1つに集中して取り組むのも良いとは思います。しかし、この世界に入って、自身がやってみたいことと違うジャンルに触れたとき、目標や将来の思い描くゴールが大きく変わることもあります。 自分の知らない世界に触れる多くのチャンスや、自分自身に様々な選択肢を得られるのが、ホテルという環境です。
その中で、ラスイートの魅力は、手作りにこだわり、クオリティを追及するところです。最近のホテルは、働き方改革の一貫として業務の簡略化を進めるために、既製品をカットして提供するだけのところが増えています。それが間違いだとは思いませんが、そのような環境では、本当の「パティシエ」は育ちません。技術を高められる環境で、職人としての「パティシエ」に成長し、力を発揮できるのが、本当の良い職場だと思います。
ラスイートの場合、会社は私たちに既製品の利用を求めません。ラスイートのパティシエに求められることは、美味しいお菓子を作り、お客様が喜ぶこと、その一点に尽きます。そのために、会社は時間とお金を投資し、「パティシエ」を育てます。ラスイートと私たちは親子のような関係だと感じています。
パティシエである私の父はよく言っていました。「お菓子作りは、作り手が楽しまないと絶対に美味しくならない。それは必ずお菓子の表情に出て、お客様にも伝わる」と。
そこで私は「楽しくやるとはどういうことだろう」と考えました。それは決してふざけ合って、お喋りしながら作ることではありません。お菓子作りに対して真剣に取り組み、新しいことにも積極的にチャレンジする。それが、心から「楽(愉)しむ」ということだと思います。
そのため、私は環境作りを大切にしています。 スタッフが心に余裕を持つことで、毎日の業務に、作業としてではなく仕事として取り組み、新しいチャレンジも生まれる。そして、それがやりがいになり、新しい目標を見つけ、活力ある日々を送ることができる。そのようなサイクルが回り続ける職場環境が、私の理想です。
今の私の目標は、私がいなくても回る職場作りです。私しかできない仕込みが極力ない職場を作りたい。極論を言えば、私に限らず特定の個人がいなくても回る職場が理想です。 私は、この仕事はこの人しかできないということがあってはいけないと考えています。誰かが抜けても他の誰かがフォローできるということは、全員が総合的に仕事を理解しているということです。全員がどう動けば良いのかを把握しているから仕事が効率的に回る。そんな職場を実現したいと考えています。
そのような環境づくりの一環として、私は若いスタッフと一緒に新しいことに取り組む時間を作っています。いつ、どんなことをするかを予告し、前もって必ず予習をしてくるよう伝えます。先輩に聞く、本を読む、材料を調べる、必要な道具を揃えるなど、事前準備を自分達でした上で教えれば、その時間の密度が濃くなり、自分自身の力になったという感覚もより大きなものとなります。
またメニューが入れ替わる3ヶ月を1つの周期として、各自に小さな目標を与え、達成できるよう意識して取り組んでもらいます。言いっぱなしで終わらないよう、段階を踏んで理論的に教えながら、最終的には、お客様に提供できるクオリティまで導くことを意識しています。単に手順を教えるだけではなく、なぜそうするのかなど、理由まで理解できれば、定着も早いですし、応用力や考える力がつきます。
現在、その成果が現れつつあり、私と一緒に働いている若いスタッフは、順調に育ってきています。それによって効率化も進み、従来、グループ内の他店舗などで製造し、送ってもらっていたものを自分達で作れるようになっただけではなく、他のお店の分をこちらで製造するなど、仕事の幅が広がっています。
お菓子作りが好きなパティシエは、できることが増えれば楽しくなります。楽しいお菓子作りができる職場とは、そこで働くスタッフが成長できる職場でもあると考えています。今後は、私のもとで育ったスタッフが、さらに若い世代を育成していく、そんな循環を生み出したいです。
個人的には、季節ごとのフェア商品の考案や、コンクールへの参加なども積極的に手を上げて取り組んでいます。上司のシェフもやりたいという意志を示す人間には、どんどんやらせてくれます。もちろん「やる」と言った以上は責任が伴います。普段の仕事をおろそかにはできませんし、準備も必要です。しかし同じことを黙々とやっているだけでは成長はありません。新しい挑戦をすれば、今までなかった発想を得たり、勉強しなおす機会にもなります。材料メーカーに電話して聞いたり、食材の歴史を調べたり、知識が深まれば、仕事の質も変わります。成功すれば自身の実績にもなります。私はこれもやりがいの1つだと感じています。
ラスイートグループの魅力は、トップが近いことです。『LINE』で社長と繋がる会社など滅多にありません。『LINE』で稟議を出して了承されることも多々あります。それは、過去に私が働いたホテルではまずあり得ません。何人も間に入るため、トップに届くまで時間がかかりますし、場合によっては届かないこともあります。トップが近ければ判断が早いので、本当に必要な時に即断即決をしてもらえるメリットは大きいと感じます。
また、ホテルは福利厚生の手厚さもメリットの1つです。心に余裕を持って仕事をするためには、プライベートも大事にしなければなりません。長時間働くパティシエが優秀なわけではありません。決められた時間で最大限の成果を生み出せることが必要です。それが日々にメリハリをもたらし、心の余裕に繋がります。
さらに、ラスイートは、新人、ベテランという分け方をせず、積極的で、やる気のある社員には、チャンスを与える社風です。チャレンジ精神のある方にはお勧めできる職場です。
私はお菓子作りにおいては、他社と比べて特別優秀だとは思っていません。むしろ勉強することがまだまだたくさんありますし、私よりも優れた技術を持つパティシエは沢山います。その一方で、最近は若いスタッフの育成や、マネジメントの楽しさを知るとともに、取り組みの成果も感じています。
もちろん、自分自身の成長を止めるつもりはありません。この職業を続ける限り、一生勉強の毎日だと思っています。私一人ではなく、チーム全体、会社全体で進み、ともに成長していきたいと考えています。