• 料理長 島 武行

誰よりも働いた

毎夜、レストランの中央に立つ。料理や人の動き、すべてに目を配る。その細やかな働きぶりを見て、この人物が料理長であり、「かが万」はじめ名だたる現場で活躍してきたと想像する人はそういないだろう。

母子家庭に育ち、小学校は高学年から包丁を握った。料理番組や本が先生がわり。高校時代のバイト先である居酒屋の紹介で、そのまま和食の世界へ入った。新人は料理長の世話をして当然の時代。同世代が自由を謳歌する中、仕事にくわえ食事の用意に洗濯、ときには湿布貼りまで立ち働いた。

やっと自分の時間ができた20代後半。「店を持ちたくはない。料理長になって好きな料理を作りたい」と思うようになる。その望みがかなったいま「順調にきた方やろね」と言葉少なに振り返る。「要領は悪いねんけど、自分のことは置いてでも先輩のことを先にしてたからね。どっちかゆうたら可愛がられたかな」

誠実でありたい

しかしながら、そんな着実な足取りは常に好意で迎えられたわけではない。「裏切られたこともたくさんある。せやから自分は絶対にそれをしたくないと思ってね」「まぁどこの世界でも同じ、人と人のことが一番難しいやろね」

だからこそチームワークを大切にする。最年長ながら、誰よりも長く働く。「なんぼ料理長でも楽しとったら、なんの値打ちもないやん」「一流かどうか、それは他人が決めることやからね」。同僚は「真面目で仕事熱心。多くを語らず『俺の背中を見てついてこい』という昔の父親のようなタイプ」と信を置く。

初めの店を辞めるとき総料理長から贈られた「てっさ包丁」。それから30数年が経過した

ずっと続く修行

修業時代についてたずねると
「いつまで、でなく、ずっとですやん」と不思議そうに返された。

「美味しかった」のひと言が何よりも嬉しいのは、仕事をはじめた18歳から変わらない。

「自分が作ったもんでそう言ってもらえるなら人数とか場所とか関係ないね。ここが最後やと思ってるけど、もしクビになったら就職もないやろうし食堂しようかな、定食屋さん」と笑った。修行は、まだ続く。
PROFESSIONAL
  • Maître d’Hôtel
    檜山 和司
  • Chef
    田中 耕太郎
  • Sommelier
    小前 岳志
  • 料理長
    島 武行