立ち姿が美しい。軸が通り、柔らかな気配をまとう。「私用で他ホテルを訪れていても従業員に間違えられる」と鷹揚に笑う。入社2年目のスタッフが「会社説明会でその佇まいに圧倒された」と語るのも頷ける。
それだけに"キャリアのスタートは料理人"という話は少し意外だ。高校は進学校だったが、「感性を活かせる仕事をと考えて」周囲に驚かれつつも調理師専門学校へ進む。就職したフレンチレストランでは「ホールで接客を担当することも」あり、それが人生の転機となった。
「ある時サービスを担当したお客様に強く手を握られながら『楽しかった』とお礼の言葉をいただきました。とても感動しました」
その感動をきっかけにサービスへの転向を決め、"高級レストランの支配人を目指そう"と神戸に出店したばかりのフランスの三つ星レストラン「アランシャペル」で働きはじめるところが「らしさ」だろう。「私は少し変わっているのかもしれません。興味を引かれたことには踏み込んでみる。他人の見方をなぞるのではなく、何事も自分の目で確かめてみるのです」
だからこそ、どのようなときであれ他人の目は気にならない。優勝した第一回日本メートル・ド・テルコンクールもごく軽い気持ちで参加した。
「私はお客様をお迎えした瞬間にスイッチが入り、『どうすれば喜んでいただけるのだろう』の一心で緊張することはありません。コンクールとはいえ、とても楽しい時間でした」
自分の目を信じ、自分だけの道を行く。そこに一切の迷いがないのは、出会いは必然と考えているからだ。
「これまで出会うべくして出会ってきました。アランシャペルへ行き、生涯の目標となる憧れの存在に出会ったことも、その一つ。私はすべてのことは定められており、きっかけが "誰か"や"何か"によってもたらされるだけだと思うのです」
そう信じるからこそ次の出会いが待ち遠しい。新たな出会いが心を震わせ、行くべき道を指す。モットーは「一生感動、一生青春」。
メートル・ド・テルであることが、何よりもそれを叶える。
仕事道具ともいうべきナイフと万年筆は数多く所有する。並べたナイフは「ほんの一部」
ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド総支配人ながらも、日々サーヴィスの現場に立ち接遇を行うとともに、教育機関で教鞭をとったり、プロ対象の実技セミナーを定期的に開催したりと後進の育成に努めている。
またホテルで本場ヨーロッパ仕込みのテーブルマナーや国際儀礼などのセミナーを開き講師を務めるなど、文化の継承と発信にも力を入れている。